一つ頂戴
作:軍曹
「ママの言うとおり、走り回ったりしなかったら入院なんてしなかったのにな。あ〜あ、みんな今頃、サッカーの試合してるのかぁ〜はぁ・・・」
ゆう君は、そう言って大きくため息をつきました。ゆう君は家の中で走り回って、転んで足の骨が折れてしまい、入院しているのです。
ゆう君はサッカーが大好きでとても上手なのですが、家の中でもボールをけったり、走り回ったりするので、お母さんは困ってしまいます。
「あ〜あ、早く怪我をなおして、サッカーの試合に出たいなぁ〜」
そういってゆう君が寝転がると、ベッドの横に女の子がたっていました。
「うわぁぁっ!!!」
ゆう君は思わず立ち上がろうとしましたが、骨折のギプスのせいでうまく立てません。
「痛いっ・・・」
すると女の子が、
「怪我・・・治したい?・・・」
と、話しかけてきました。ゆう君は
「そりゃあ、直したいにきまってるさ!でもさ、よく分からないけど、ぜんち?・・3ヶ月だって!まだまだ直らないよ・・・」
「治るよ・・今すぐ・・・・」
女の子の言葉に、ゆう君は信じられない顔で、
「じゃあ、直してよ!今すぐ!ほら!」
「分かった・・・じゃあ、貴方の大切なもの、一つ頂戴ね・・・・」
女の子はそういって病室を出て行きました。
「なんだいあいつ!へーんなの!」
そういうとゆう君は読んでいた漫画を放って寝てしまいました。
ゆう君が夕方起きると、ベットの隣においてあった、ぴかぴかのロボットの人形がなくなっていました。ゆう君はびっくりして、
「あれ!?僕のロボがない!?どこにいったんだろう、もしかしてベットの下かな?」
と、ベットから降りて周りを探し始めました、
「やっぱりないよ〜、う〜ん、どこかな〜」
すると、ゆう君は、気づきました
「僕・・歩けるようになってる!もしかして・・あのこのいってたことって本当だったんだ!!」
ゆう君はスキップしながら、お母さんに報告しに行きました、お母さんもお医者さんも、とってもびっくりしていたけど、皆よろこんでくれました。
ゆう君は病院を退院して、ますますサッカーが好きになりました、サッカーをがんばっていると、骨折した理由なんてことは、だんだんと忘れていきました。
ゆう君はサッカーに夢中で、またお母さんの言うことを聞かなくなりました。家の中でサッカーの練習をして、花瓶を割ったりしましたが、反省しませんでした。だって怪我をしても、あの女の子が直してくれるもん、と、思っていたからです。
ゆう君は今日も家の中でリフティングをしています。
「こら!家の中でするのはやめなさい!」
洗濯物をいっぱい抱えたお母さんが1階まで階段で降りながらゆう君を叱ります、でもゆう君は、
「平気平気!だって怪我なんかしないもんね!」
と、口笛を吹きつつボールをけります。
と、その時、ゆう君は置いてあった漫画につまづいてボールをお母さんにいる方向に思いっきりけってしまいました。「危ない!!」と、いったころにはもう遅く、ボールはお母さんの背中に当たり、お母さんはそのままバランスを崩して階段の下のほうへと落ちてしまいました、
「お母さん!!大丈夫!!」
お母さんはひどい怪我です、このままでは、救急車が来る前に手遅れになってしまいそうでした。
するとそこに、あの時の女の子がやってきて
「怪我・・・治したい?・・・」
「うん!早く早く!!早くして!!」
「大きな怪我には・・一番大切なものだよ・・」
「いいから!!早く!!!」
女の子はゆう君がせかすと、お母さんに手をかざしました、すると、お母さんの怪我が見る見るうちに治っていきました。
お母さんは、顔色も良くなって、もう元気になりました。
「う、う〜ん、何が起きたの?いったい?」
お母さんが、起きると、女の子はいなくなっていました。お母さんは、
「ゆうくーん、ゆうくーん、どこいったの?」
と、ゆう君を呼びます。返事はありません
ゆう君の部屋にも行きましたが、サッカボールを残して、ゆう君はいなくなっていました。
お母さんは、きっとどこかで遊んでいるんだと思い、散らばった洗濯物を片付けはじめました。
「まぁ、5時には帰ってくるわね。」
しかしゆう君はそれっきり、帰ってはきませんでした。そう・・・・
ゆう君は、お母さんの、『一番大切なもの』だったのです。