痛みは同じ。
作:雨森 天
痛っ…。
傷口をみて、俺は顔をしかめた。
もうすぐ運動会だ。
俺はクラスの中でも足が早く、今年はリレーの選手に選ばれていた。
リレーといえば、点数も高く、勝てば目立つし親も喜んでくれる。
そのためにここまでがんばってきたのに…。
ケガをしてしまった。
思いっきりころんでしまい、あわてて保健室にいったけど、保健室の先生には
「大きなケガだから、運動会までになおるかわからないから、リレーはあきらめた方がいいわ。」
とまで言われてしまった。
まだ走れる!と言ったけど、たしかにタイムが落ちてしまったのも本当だ。
「はぁ〜あ…このケガがキレイになおればなあ…。」
なんてひとりごとを言ってみる。
なおらないのは承知で。
「ねぇ、キミ!」
「は?俺?」
振り向くと、バンドエイドをたくさん背負った…妖精!?
「うわっ、な、なんだお前!」
「私はエイドちゃん!キミのケガを治してあげるよ!」
そう言っていきなり俺の傷口を治療しはじめた。
_なにやってんだ、バンドエイドなんかでなおるわけないじゃん。
「はいっ、なおったよ!」
「え、嘘だろ!?」
見るとたしかにケガのあとは無くなっている。
「で、でも走れんの?」
「大丈夫だよ!私が直したんだから!」
まったく意味がわからないしふぉこが大丈夫なんだか、と思ったが、まあ大丈夫なんだろう。
「じゃ、私行くねー!ってわっ」
俺の目の前でエイドちゃんが思いっきり転んだ。
「っお、おい大丈夫かよ!?」
「ヘーキヘーキ!じゃあねー!」
とどこかへ行こうとするエイドちゃん。
俺は思わずエイドちゃんの小さな手をつかんだ。
「…な、何?」
「ケガしたのなおしてもらったんだから、俺が手当てぐらいしてやるよ。」
はじめは遠慮していたエイドちゃんも、観念したようでおとなしく治療をうけはじめた。
「うん、お前ほどうまくは出来なかったけど…。」
「ありがとう!治療なんて初めてしてもらったよ…。」
エイドちゃんが嬉しそうに笑ったので、俺もなんだか嬉しかった。
「ケガしたらなおしてあげるのもいいけど、自分がケガしたら相手をたよってもいいんだぜ。」
俺が笑うと、エイドちゃんも心から嬉しそうに笑って_、そして
「じゃあねー!」
と、今度こそ夕暮れの道を帰って行った。
「よし、俺もリレーがんばるぜ!」
そう言って、俺も立ち上がった。
運動会では、リレー1位という結果を残すことができた。
皆は俺のケガのあとがないのををみて、どうしたの?と聞いてきたから、
「エイドちゃんのおかげ。」
と笑ってやった。
皆不思議そうな顔をしていたから笑った。
エイドちゃんは、今でも誰かのケガを直しているのだろうか。
そして今度は、ちゃんと自分がケガしたら誰かに直してもらっているだろうか。
彼女の笑顔を思い出して、俺はまた会いたいな、と思ったが次会うときはまたケガしないと、と思って苦笑いした。
そしてありがとう、と呟いた。
「これでケガはなおったよ!」
「ありがとう、お姉ちゃん!…あれ、なんで使い終わったバンドエイドがあるの?」
「これはね、私に_
笑顔をくれた人の、プレゼントだよ。」