※2006年〜2010年に投稿された100件の中から「おはなしオバケーター賞」に選ばれた作品です。
 

痛みは同じ。
作:雨森 天

痛っ…。

 

傷口をみて、俺は顔をしかめた。

もうすぐ運動会だ。

 

俺はクラスの中でも足が早く、今年はリレーの選手に選ばれていた。

リレーといえば、点数も高く、勝てば目立つし親も喜んでくれる。

 

そのためにここまでがんばってきたのに…。

ケガをしてしまった。

 

思いっきりころんでしまい、あわてて保健室にいったけど、保健室の先生には

 

「大きなケガだから、運動会までになおるかわからないから、リレーはあきらめた方がいいわ。」

 

とまで言われてしまった。

まだ走れる!と言ったけど、たしかにタイムが落ちてしまったのも本当だ。

 

「はぁ〜あ…このケガがキレイになおればなあ…。」

 

なんてひとりごとを言ってみる。

なおらないのは承知で。

 

「ねぇ、キミ!」

「は?俺?」

 

振り向くと、バンドエイドをたくさん背負った…妖精!?

 

「うわっ、な、なんだお前!」

「私はエイドちゃん!キミのケガを治してあげるよ!」

 

そう言っていきなり俺の傷口を治療しはじめた。

 

_なにやってんだ、バンドエイドなんかでなおるわけないじゃん。

 

「はいっ、なおったよ!」

「え、嘘だろ!?」

 

見るとたしかにケガのあとは無くなっている。

 

「で、でも走れんの?」

「大丈夫だよ!私が直したんだから!」

 

まったく意味がわからないしふぉこが大丈夫なんだか、と思ったが、まあ大丈夫なんだろう。

 

「じゃ、私行くねー!ってわっ」

 

俺の目の前でエイドちゃんが思いっきり転んだ。

 

「っお、おい大丈夫かよ!?」

「ヘーキヘーキ!じゃあねー!」

 

とどこかへ行こうとするエイドちゃん。

俺は思わずエイドちゃんの小さな手をつかんだ。

 

「…な、何?」

「ケガしたのなおしてもらったんだから、俺が手当てぐらいしてやるよ。」

 

はじめは遠慮していたエイドちゃんも、観念したようでおとなしく治療をうけはじめた。

 

「うん、お前ほどうまくは出来なかったけど…。」

「ありがとう!治療なんて初めてしてもらったよ…。」

 

エイドちゃんが嬉しそうに笑ったので、俺もなんだか嬉しかった。

 

「ケガしたらなおしてあげるのもいいけど、自分がケガしたら相手をたよってもいいんだぜ。」

 

俺が笑うと、エイドちゃんも心から嬉しそうに笑って_、そして

 

「じゃあねー!」

 

と、今度こそ夕暮れの道を帰って行った。

 

「よし、俺もリレーがんばるぜ!」

 

そう言って、俺も立ち上がった。

 

 

 

運動会では、リレー1位という結果を残すことができた。

皆は俺のケガのあとがないのををみて、どうしたの?と聞いてきたから、

 

「エイドちゃんのおかげ。」

 

と笑ってやった。

皆不思議そうな顔をしていたから笑った。

 

エイドちゃんは、今でも誰かのケガを直しているのだろうか。

そして今度は、ちゃんと自分がケガしたら誰かに直してもらっているだろうか。

 

彼女の笑顔を思い出して、俺はまた会いたいな、と思ったが次会うときはまたケガしないと、と思って苦笑いした。

 

そしてありがとう、と呟いた。

 

 

 

「これでケガはなおったよ!」

「ありがとう、お姉ちゃん!…あれ、なんで使い終わったバンドエイドがあるの?」

「これはね、私に_

 

  笑顔をくれた人の、プレゼントだよ。」