※2006年〜2010年に投稿された100件の中から「おはなしオバケーター賞」に選ばれた作品です。
 

circus。〜道化師〜
作:雨森 天

ワァァァァ…。

サーカスの中で、拍手が響き渡る。

 

<<これにて、サーカスは終わりです。忘れものに気をつけてお帰り下さい>>

 

皆が、サーカス会場から出ていく。

しかし…。

一人だけ、少年がいつまでも残っていた。

ぼっと、席に座ってサーカスステージを見つめていた。

ピエロ達が誘導しても、動こうとはしない。

ただ、ずっとサーカスステージを見つめていた。

 

そして、ピエロ達もいなくなって_。

サーカス会場の光も消えた。

 

それでも、少年は動かない。

 

しかし_

サーカスステージに、いきなり電気がともった。

 

「_?」

少年がステージを見上げると、ピエロが一人_。

「やあ、僕はピエ〜ン。今から君にサーカスを演じるよ。」

そう言うと、ピエ〜ンはいきなりサーカスを始めた。

 

ジャグリング、空中ブランコ、マジック…。

どれもこれも、一流だ。

 

少年は思わず拍手をした。

けれど、またサーカスが終わるとうつむいてしまう。

 

「どうしたの?何があったの?」

「だって…。」

 

ピエ〜ンは、少年が何も言わないので、頭に手をかざした。

すると、記憶がフラッシュバックする。

少年の、記憶が__。

 

少年は、いじめられていた。

身長が低いと、いじめられていた。

 

「身長が低いんなら、もっと牛乳飲めよー。」

「飲めないんなら、飲ませてやろうか?」

そういって、牛乳を無理やり口に入れる。

当然、口にはいるはずもなく、口から牛乳が出る。

 

すると、汚いと言われ、ますますいじめられる。

そんな感じで、もう生きるのが嫌になっている。

 

生きるのに、飽きたみたいだ。

 

「そうか…。じゃ、君の運命を変えてあげるよ。」

「そんな事、できるの__?」

「大丈夫。任せて。だから今は帰って、睡眠をしっかりとるんだよ。」

 

そう言って、ピエ〜ンが手を振ると、少年は家のベットだった。

_大丈夫、まかせて。_

 

少年は、そのピエ〜ンの声に任せて眠った。

次の日_

 

少年をいじめていた、人はいなくなった。

少年は、友達もできた。

毎日、楽しい日々を送れた_。

 

それから、何度かサーカスの前を通った。

そして、そこで_。

 

ピエ〜ンに似た、ピエロもみた。

いじめていた子に似ている、ピエロもみた。

けれど、もうサーカスには寄らなかった。

 

今は、もう見ることはない_。

あんな、孤独な時は。

 

もう、一生やってこない_。

 

だけど、一言だけ言う。

 

あの時、会えてよかったと思う。

ピエ〜ンに…。

 

end