※2006年〜2010年に投稿された100件の中から「おはなしオバケーター賞」に選ばれた作品です。
 

本読みBook!
作:きーは

新しくできた図書館。

僕はそーっとドアを開けた。

わぁー!

本でいっぱいだ。人は誰もいない。職員の人も、読みに来た人も。平日だもんな。

この図書館では平日は本を借りられず、読むだけだ。まだ平日用の職員が集まっていないのが原因だと思う。

 わぁ…『空高くヒカリ』…ある!『ミラクルウィンドゥ』もあるし…

あ、『バックンブック』って…どんな話だろ?

僕は開いてみた。

「わぁっ!!!!!痛ってー!!!!!!」

噛みつかれた……本に…

叫んでるのに誰もこない。そうだ。誰もいないんだった。

誰か来いよ……

痛い。

あ、はなれた…

次は周りの本たちに噛みついてる…

逃げなきゃ……

「わぁっ!!!!!」

また噛みついてきた!

振りはらおうとするのに離れない。

痛いよ………

 

 気がつくともう噛みつかれてなかった。

でも、あれ…。この顔って…僕だよね?

僕の顔が目の前にある…。

じゃあ、僕は!?僕はどうなってんの!?

手は…ない。足もない。あるのは大きな歯と舌だけ……僕は、さっきのオバケになっちゃったんだ。

 声がした。僕じゃない僕が、しゃべったんだ…

「俺とおまえはいれかわる。永遠にだ。」

え………

「ちょ、ちょ、まっちゃや。まっちぇちょ…」

ふるえて舌がまわらない。『ちょっとまってよ』って言いたいのに…

おかしいよ。そんなの。やだよ………

あぁ、もうあいつはいない。

「なんか書いてんな…」

とか言って、さっき噛みちぎらなかった本を開いてる。そしてわめきだした。

「読めねえっ!やめた!!人間はこんなもん読みに来てたのか!バカだなぁ。」

これにはちょっとムカついた。本ってのは楽しいんだ。おまえには読めないかもしれないけど、楽しい話がいっぱいあるんだよ。

だんだん読めないことがかわいそうになってきた。文字を勉強すれば、君にだって読めるんだ。君だって楽しみたいだろ?

 

 うわっ。また本のオバケだ。こっちはなんかかわいいけど…今まで寝てたって顔だ。

「こんにちは!僕、ブックマンっていうんだ。よろしく。君は?」

「バックンブックだけど何!?おまえも噛みちぎってほしいのか?じゃないんなら出てけ。」

うわ。あいつに…バックンブックに自己紹介してるし。大丈夫か…?

ブックマンの顔が、ちょっとひきつった。

「…君、人間だろ…。かみちぎるって……。そんな怖いこと言わないでよ…」

「俺は人間なんかじゃない!オバケだ!!」

どう見ても人間じゃん。この人、大丈夫?

そうつぶやいたのを僕は聞いた。

本になるって、意外とおもしろい。気づかれずに聞いていられる。

バックンブックには聞こえなかったらしい。

ブックマンが言う。

「えっと…まぁなんでもいいから……君さ、本嫌いなんだろ?僕は君に本が楽しいって事を教えに来たんだよ。」

「知らなくたっていい!」

いやがるバックンブックに、ブックマンは強引に、文字の読み方を教え始めた。

ブックマンは『覚えるまで教え続けるから!』って感じの勢い。

バックンブックは、今は人間だから噛みちぎれるような歯はない。

 けっきょくバックンブックが負けて、素直に聞き始めた。

逃げることもできたんだろうけど、そうはしないで、ちゃんと聞いていた。

 

5時。

やっとブックマンは教えるのをやめた。

バックンブックが文字を覚え終わったんだ!ブックマンに問題をだされても、すぐ答えられる。

これでもう、いろんな本を読める。

ブックマンは、満足したようににっこり笑って元の場所に帰っていった。

 それから…バックンブックは、本を読み始めた。

あんなに嫌がってたのに、にやっと笑ったり、涙目になってたり、大泣きしたり…

1時間ぐらいして、『空高くヒカリ』を読み終わった。

満円の笑みで…

「おもしろかっただろ?泣けただろ?僕、まだ読んでないんだけど、読みたかったんだ。空高くヒカリ。」

 自然と僕は話しかけていた。

「確かにおもしろかったし泣けたよ……またいつか読みたい。他の本も。また変わってくれよ。じゃ。」

えっ?!!ってことは…戻ってくれるの?ホントに!?

バックンブックは僕を開いたー

 

 もとの僕だった。戻れた!!!

ブックマンが不思議そうに見ている。

 

 

『バックンブック』と書かれた本。見つけたら、入れ替わってあげて。ちょっとの間だけでいいからさ。

きっと、喜ぶよ。

本に飛びつくだろうね。噛むためじゃなくて、読むために。